MEMOLOG*プチお遊び企画SS

「なめるな、デカブツ!!」(日番谷・夏梨)


※夏梨が普通に死神です。

 彼らに取っては、今日来たばかりの見知らぬ町の不気味な廃工場の中。そこで二人の男は、大型犬用の二つの檻を前に仁王立ちでいた。
「やっちまいましたよ、アニキぃ……。どうすんですか、これから……」
「情けねえ声出してんじゃねえよ! ガキ誘拐してやることっつったら、一つしかねえじゃねーか!」
 彼らの前にある、犬用の檻――そこには、犬ではなく、人間の子供が入っていた。二つの檻に一人ずつの計二人。眠っているが、起き上がっても立たない限り余裕は十分ある。
 それを見る男、一人は筋肉質な、もう一人はでっぷりと太った、けれどどちらも大男と呼んで差し支えないほど背の高い二人の男たちは――誘拐犯だった。
 誘拐、と言っても河原で何故かぶっ倒れていたのをさらって来たに過ぎないのだが。
「……にしてもこのガキ、綺麗な顔してんな」
「ですよねェ……男ッスよね?」
「そうだろ。顔が整ってて銀髪が似合うガキたぁ、ヘッ、オレらとは雲泥の差だなァ」
 毒づいて、アニキと呼ばれた筋肉質な男は片方の檻を蹴飛ばす。ガシャンと耳に痛いほどの音がしたが、中の銀髪の少年はぴくりともしなかった。隣の檻の少女も同じく、死んだように眠っている。
「こっちのガキは、女ッスね。そっちのと比べると平凡ですけど……」
「……女だからってなにまじまじ見てるんだよ、テメェそっちの趣味か」
 太った男のほうが、少女の檻をやたら覗き込んでいるのに、筋肉質な男は顔をしかめた。だが太った男は見るのをやめない。
「いやァだってこのガキ、足すっげーキレイなんですって! 触っていいスか!?」
「キモい! 全力でテメェキモいぞ!! デブがンなこと言ったら冗談抜きで変質者じゃねえかァァ!!」
「変質者でいいッス! オレ今ハアハアしてるッス!!」
 そう、太った男が変態極まりない発言をした、その直後だった。

「――汚ねえ手でそいつに触んな」

 子供にしては低い声が、鋭い冷気と共に耳朶を打つ。
 今は春だ。いったいどこから、と考える暇もなく、振り返った瞬間、太った男は唐突に現れた氷塊に容赦なく突き飛ばされた。
「おいィ!?」
 ひっくり返った悲鳴をあげた筋肉質の男は、何が起きたか理解できず、ただ檻の中で体を起こした銀髪の少年が、視線だけで射殺されそうなほどの眼差しを太った男に向けているのを見た。
「てってめえ、ガキ!! なっ、何を……っ」
「――ガキで悪かったな」
 今度は女の子供の声だった。それを認識するかしないかで、檻の隙間から勢いよく繰り出された蹴りが、男の向こう脛にしたたかに命中する。
 男が悶絶して言葉を失った間に、子供二人はやけに冷静な様子でよくわからない会話をした。
「どうなってんだよ、冬獅郎。何で魂魄抜けてる間にあたしら誘拐されてるわけ」
「俺が聞きたい。……だが、わかるのはやっぱりあんなところに義骸置いて行くのはまずかったってことだ」
「あたしのせいにするのかよ。隊長のくせに」
「都合のいいときだけ部下になってんじゃねえよ」
「じゃ、ずっと部下やっててほしいですか? 日番谷隊長」
「……むかつく。やめろ」
 憮然とした少年が言い返したときが、ひたすら存在を無視された男の我慢の限界だった。
「わけわかんねえこと言ってんじゃねーぞ、何もできねえガキがぁッ!!」
 男は持っていたらしい金属バットを振り上げて叫ぶ。そしてそれが、男の断末魔となることになった。

「――なめるな、デカブツ」

 ぴったり呼吸の合った同じ言葉を、子供に似つかわしくない冷静さで呟いた白と黒の二人の子供は、次の瞬間、檻も男も吹き飛ばして、姿を消したのだった。
 後に町の都市伝説としてひそかに語り継がれることになるのだが、死神として天才の名を欲しいままにする二人の子供は、まだそれを知らない。

[2010.03.24 初出 高宮圭]