MEMOLOG*プチお遊び企画SS

「仕事してくださいよ」(日夏+他)


※色々勝手捏造設定。

「「……恋人のフリ?」」
 声を揃え、思いきり怪訝そうな表情も同じくで、日番谷と夏梨の二人はオウム返しに夜一に問うた。
 図らずも息の合う様を見た夜一はにやりと口角を上げて大きく頷く。
「カップルを狙ってばかりの霊障が起きているのは知っておるじゃろう。そこでおぬしたちには囮になってもらいたいのじゃ」
「俺達でなくとも、他に人員はいるだろうが」
「ていうか、何でわざわざ呼び付けてまであたしなのさ……」
 至極迷惑そうな表情を隠さない二人は、今いる浦原商店の中に揃った面子を視線で示す。そこには今回の霊障対応に差し向けられた乱菊、やちる、白哉、恋次、そして一護がいた。本来既に現世対応組として馴染みつつある面子が揃う予定だったのだが、一角と弓親、ルキアが他の任務のために不在となり、その代わりと名乗りを上げたのがやちるで、彼女にほぼ無理やり(「現世あんまり行ったことないよね!」という理由で)白哉が引っ張られて来たため、この妙な面子になった。
 その面々を振り返り、夜一は若干不機嫌そうな一護を含み笑いの視線で流し見てから、答えた。
「おぬしら、以前から仲が良いではないか。さして仲が良くない二人が歩いておっても説得力に欠けるし、見た目の年頃もちょうど良い。確率からして、高校生カップルが特に狙われておるようじゃからのう」
「あたしまだ中二なんだけど……」
「ていうか夜一さん、夏梨は死神じゃねえだろ」
 げんなりした様子の夏梨の呟きに被せるように一護が若干険の混じった声で意見する。しかし夜一はそれに半眼でしれっと返した。
「その死神でない妹に、おぬしはどれほど助けられた?」
「それは……」
「夏梨は訓練を受け始めてもう半年近い。実力が付けば戦力と見なされることは始めから言っておいたじゃろう。いつまでもぐだぐだ言うでない、シスコンめ」
「シ……ッ!?」
 思わずびきんっと体を硬直させた一護に、夜一は大袈裟なため息をついて見せた。
「今までの危険な任務には聞き分けた素振りで口を挟まなかったくせに、色恋沙汰になるとこれじゃ。一護、おぬしそのうち親父のようになるぞ」
「うっわ……やめてよ欝陶しい……」
「ならねーよ! 夏梨、お前も心底嫌そうな顔してんじゃねえ!! つーか俺よりシスコンっつったらなぁ!!」
 ほとんど咄嗟で一護はその場にいたとある人に指を向けそうになる。だがその命知らずな行為は、寸前で未遂に食い止められた。
「一護ォ!!」
 と、恋次が首を締め上げる勢いで一護の喉を引っつかんだのだ。
(てめえ誰指指そうとしてんだ!! 千切りにされてえのか!!)
 声を抑えて叫ばれた言葉にやっと一護は我に返る。だがそのやりとりの直後、今では大きくなったやちるが、相変わらずの満面の笑みで白哉の袖を引いた。
「びゃっくんも妹のこと、大好きだよね!!」
 いっちーとお揃いだね! と無邪気に言ったやちるに、一護と恋次はびしっと凍り付く。――なんてことを。
 そう思うがもう遅い。白哉は一分も動かさなかった表情のまま、やちるを見下ろした。そして。
「……確かに、可愛い、な」
 ――その回答からしばらく、間があった。そしてルキアの処刑事件以前の白哉を知っている誰もがおそらく思っていた。
 本当に、丸くなったものだ、と。


 ともあれ、結局囮作戦は日番谷と夏梨の二人で敢行されることとなった。
 乱菊がここぞとばかりに張り切って嫌がる二人を飾り立て、完成して見れば元からの大人っぽさも相俟って、見事に高校生と言って問題ない見た目にすることに成功した。
「いい加減にしろ、松本!」
「ああもう、動かないでくださいよ、隊長」
「てめえ、遊んでるだけだろうが!」
「仕事です任務です。もー隊長ったら、ちゃんと仕事してくださいよ」
「てめえにだけは言われたくねえ……!!」
 などと日番谷を丸め込んだ乱菊は、その出来映えにご満悦である。
「うんうん、やっぱり思った通りね! お似合いですよぅ、隊長、夏梨!」
「ほほう、なかなか良いではないか。並ぶと互いに映え合っておる。さすがじゃのう? 乱菊」
 軽い口調で、しかし素直に賛辞を述べた夜一の言う通り、二人の衣装はよく似合っていた。日番谷が黒ベース、夏梨が白ベースとシックなモノトーン調ではあるが、それぞれ髪と正反対の色を持って来ることによって個人としてもまとまりがあり、互いに互いを映えさせ、大人びた雰囲気を醸し出す。
 夏梨はレースをあしらった白のノースリーブワンピースとベージュのミニフレアスカートで可愛らしい雰囲気の服だが、二の腕ほどまである長いまっすぐな黒髪と、足元の黒のロングブーツのコントラストのおかげで大人っぽさが先立つ。
 日番谷はゆったりした襟元のダーク系のラフなシャツのアンサンブルにストール、同系色のスキニージーンズに革靴という普段の彼からすれば凝った組み合わせだ。だが大きめに開いた胸元や、長い足を強調するスキニージーンズは彼の持ち前の色香を増していた。
「すっごーい! 何だかお人形さんみたいだねっ」
 夏梨より少し背の低いやちるは、夏梨を眺めて楽しそうだ。
 やちると夏梨は見た目の年頃が近いこともあって仲が良い。だから今の状況に若干不満のある夏梨も邪険にはしなかった。
「私服でスカートなんて着ないから、何か妙な感じ。ていうか、人形って……」
「可愛いよ? あたし、こんな人形あったらほしいなあ。……あっ、そうだ! ねえねえいっちー! 夏梨うちにちょーだいっ」
 名案とばかりに一護に手を挙げたやちるだったが、
「却下。おい、さっさと行くぞ」
 さらっと、しかし断固の拒否を日番谷から返された。そのまま日番谷は、夏梨の腕を捕まえてすたすたと歩き出してしまう。
 その後ろ姿を一護はしばらくぽかんとして見つめていたが、すっかり二人の後ろ姿が小さくなった頃に、ようやく声が出た。
「なっ――なんでお前が答えんだ! 少なくとも絶対、お前にはやらん!!」
「……いっちー、聞こえてないと思うよ?」
「諦めるんじゃな、一護」
「夏梨ちゃん、あれは近い将来半端なくモテるわよ。隊長がついてれば安全だと思うけど、どうする? 一護」

 容赦ない女性陣の畳み掛けに、一護はあえなく撃沈した。


 一方で、噂の当人二人は、霊障の起こる地域一帯を目指して街中を歩いていた。出発までは普段通りだった二人だが、出発からもうじき目的地に着くという頃になってもすっかり口数が減ったままだった。
「……冬獅郎、持つなら腕じゃなくて手にしてくれない? その、動き辛いし」
「あ、ああ。悪い」
 日番谷はそこでようやく腕を掴んだままだったのに気づいたらしい。ぱっと手を離して、どこか気まずそうにする。夏梨も少し気まずい視線をそらしたが、離された腕でぎゅっと日番谷の服の裾を引いた。
「べっ……別に、離せとは言ってな……」
 しかしその言葉が終わる直前、ばきばきという渇いた不穏な音が二人の耳を掠めた。
 瞬間的に飛びのく。が、夏梨は慣れないヒールの靴に足を取られた。まずいと思ったときには既に、蔓のようなものに両腕を縛り上げられてしまう。
 同時に一瞬で二人の周りの景色が変わり、別の空間へ連れ込まれたことを悟った。
 こんな現象の報告は聞いていない、と冷静に考えていた夏梨だったが、それもそこまでだった。
「やっ……やだ、何だよこれ!」
 巻き付いた蔓が、そのまま動きを止めずに全身に伝い始めたのだ。こともあろうに、開いた胸元やスカートから服の中にも侵入する。
「やめろってば!」
 ただならぬ身の危険を感じて、夏梨は思わず取り乱す。しかし次の瞬間、蔓は音を立てて凍り付いた。
「――俺の女に手を出すとは、いい度胸だな」
 いつもより数段低い、怒気をはらんだ声が漆黒の空間に響く。同時に夏梨は蔓から解放され、倒れ込む寸前で日番谷に支えられた。
「冬獅郎……」
「お前は黙って見てろ。こいつは俺がやる」
「な……」
 言うや、日番谷は義骸を脱ぎ捨てて敵に向かった。
 それをぽかんとして見送った夏梨は、しかし背後に新たな敵の気配を感じて即座に死神化する。
「ああ、もう!」
 刀を抜き様、夏梨は毒づく。ただし対象は敵ではなく、日番谷にだ。
(何でああいうこと、さらっと言うかな!)
 恋人のフリだ。その一環だ。そう言い聞かせながらも、上がった心拍数は戻らない。
 もし、自分なら。

「――フリでも好きだなんて言えるか、ばーかっ!!」

 しかしこのとき、二人は全く気づいていなかった。すっかり周りに筒抜けなお互いの想いにも、連絡用のマイクが入りっぱなしだったことにも。


[2010.04.04 初出 高宮圭]