G的敵事変

※目立ちませんがリク企画「Pierrot March」と設定が同じです。ただ、以下わかっていれば読めます。
<成長後日夏/夏梨死神/日番谷とは旧友で恋人>


01

 それは、とある朝のことだった。
「おっはよー。あれ、夏梨は?」
「おはようございまーす。夏梨ちゃんならまだですけど……って乱菊さん同じ隊じゃないですか」
「そうだけど。あの子いつも早起きだから、先に行ったと思ってたのよ」
 珍しいわねえ、と首を傾げながら清音に返して、乱菊は部屋にある時計を見た。
 午前八時十分。常ならば、夏梨はとうに起き出して鍛練に精を出している時間だ。
 今朝、女性死神協会の集会があるのは昨日伝えてある。そういう日に夏梨が寝坊するというのは珍しかった。
「ま、そんなこともありますよ。うちの副隊長なんて夏梨ちゃんの兄のくせに寝坊しっぱなしだし。またどついてもらわないとなあ」
 清音は言いながら思い立った様子で立ち上がる。
「あたし起こしてきますよ。どうせ今やることないし」
「あ、あたしも行くわ。集合待ちみたいだし、何よりシャッターチャンスあるかもだしね」
 乱菊はどこからともなく取り出したデジカメ片手にふふふと笑う。
 入隊時は小さかった夏梨だが、今では順調に成長し、本人こそ知らないが、ひっそりこっそり人気があったりする。もともと素材はいいのだ。口を開けば男顔負けなほどに乱暴だが、黙って立っていれば絵になる。
 そのくせ無自覚に無防備をさらすものだから、成長を見守ってきた乱菊としては、いつかどこぞの男にぱっくり食べられてしまわないかと心配でならないのだが。
(ま、それとこれとは話が別よね)
 夏梨といると、その無防備ゆえのシャッターチャンスが多くある。そして夏梨もそうだが、彼女といるとき、クール極まりないあの日番谷が、思いもよらない珍しい表情をしてくれることがあるのだ。
 何より。
「寝起きとか、やっぱ写真集にはあってしかるべきでしょ!」
 ――こっそり製作中の夏梨の写真集のための画策である。



***



 ――乱菊たちが夏梨の部屋に向かう数時間前。午前零時十四分のことである。
 十番隊隊舎の最奥。そして一番端にある、遠いわ狭いわで非常に使い勝手が悪く不人気な部屋。そこが、夏梨の部屋であった。
 だが場所自体が不人気ゆえに隣近所に他の隊員の部屋はない。希望制で部屋を決めるから、当たり前と言えばそうだ。
 夏梨は鍛練等でうっかり近所を巻き込んで部屋を破壊したことが過去に三度以上あるため、自らこの部屋を選んだ。これ以上壊したら本気で「力有り余ってんならウチに来い」と事あるごとに言われている十一番隊に引き渡されかねない。――と、夏梨は思っているのだが、実際のところ、日々夏梨を(遊び相手に)寄越せとうるさいやちるが日番谷に断固拒否されていることなど、知る由もないことである。
 ともあれつまるところ、夏梨の部屋には滅多に人は来ないのだ。
 しかし、よりにもよって深夜のそのとき、夏梨の部屋の戸は叩かれた。

「……どしたの?」
 このとき、夏梨は翌朝のために既に床に入っていた。
 起き出して戸を開けて、そして見た顔に、寝ぼけと不思議でどこまでもきょとんとした表情を向けた。
 戸の外にいたのは、夏梨の所属する十番隊の隊長たる、日番谷冬獅郎だった。夏梨とは今でこそ隊長と部下という立場ではあるが、霊術院以来の友人である。
「――出た」
 日番谷は夏梨を見下ろして、真剣な表情で一言だけ言った。
 昔は夏梨より(少しだけ)小さかった日番谷だが、今では夏梨より頭一つ分も高い。
「出た?」
 夏梨がきょとんとすると、日番谷は緊張した面持ちで頷いた。
「あの――忌まわしいヤツだ」
 ぼそりと、それは低い声で告げられたその言葉に、夏梨は一瞬きょとんとする。だが、すぐに日番谷の言う「アレ」が何か理解して――顔を盛大に引きつらせた。
 日番谷が夏梨のところに来ざるを得ないアレ。すなわち、黒くてかさこそ動いて不快極まりない、あの。
 理解と同時に、全力で戸を閉めようとする。が、それは日番谷の手によって阻まれた。
「閉めるな!」
「やっ、やだよ! 離せってば、あたしアレだけはダメだって知ってるだろ!?」
「俺もだって知ってるだろうが!」
「胸張るな元チビ!」
「てめえにだけは言われたくねえ!」
 ぐぎぎぎぎと戸を閉める開けるの力比べをしながらの舌戦では、もちろん女の夏梨のほうが分が悪かった。しまいには力任せに押し切られ、日番谷は夏梨の部屋に押し入る。
「あたしのとこ来てどうするつもりだよ。乱菊さんとかに見つかったら面倒だぞ!」
「お前鍛錬でやたら物壊すから隣近所に部屋ねえだろうが。心配しなくても用が済んだら出てく。……お前、浦原からアレ専用の殺虫剤買ってたろ」
「え? まあ、うん……冬獅郎も買ってたじゃん。もうないの?」
「あるにはあるが部屋の中だ」
「……あ、そう」
 要するにアレが出た部屋に入りたくないということだ。だが、その気持ちはわからなくはない。だから夏梨は「ちょっと待って」と探そうとしたのだが、ふとまた引き止められる。
 怪訝そうに振り向くと、日番谷はハンガーにかけてあった夏梨の死覇装の上着を投げて寄越した。
「着とけ」
 言われて初めて、そういえば寝巻きの着物一枚だったことに思い至る。途端に羞恥で真っ赤になった夏梨だが、今更どうしようもない。素直に上着を受け取って、袖を通しながら日番谷を睨んだ。
「こんな時間に来た冬獅郎が悪いんだからな!」
 ため息で流されたそれは、多分照れ隠しの役目を果たさなかった。

2009Xmas〜年末年始10日連続更新十日目その1。
[2010.01.03 初出 高宮圭]